日本IVR学会・日本産婦人科学会合同アンケート調査結果について
私(田頭周一)が所属している学会は日本医学放射線学会と日本インターベンショナルラジオロジー(IVR)学会です。IVRとは、放射線医学の分野の一つですが、子宮動脈塞栓術(UAE)で用いられるカテーテル技術などの画像下治療を示す言葉です。IVR学会はIVRを専門とする、主に放射線科医の所属する学会です。
2020年8月、日本IVR学会総会において、UAEについてのIVR学会会員668名と日本産科婦人科学会会員628名から寄せられたアンケート調査の結果が発表されました。今回のコラムではその結果について概要をお知らせします。実際のスライドをお示しすると視覚的にわかりやすいのですが、権利の関係上そのまま掲載することはできませんので、文字ばかりで読みづらくなることをご容赦ください。
まず前提として、産婦人科学会の子宮筋腫診療ガイドラインでのUAEの位置づけについてですが、1.無症状で巨大でない場合には、定期的に経過観察する。 2.過多月経、月経困難症、圧迫症状などの症状を有する場合は、原則子宮全摘術を行う。 3.手術の代替治療として、子宮動脈塞栓術(UAE)を行う。 4.過多月経の改善のためには、子宮内膜焼灼術、レボノルゲストレル放出子宮内システムやエストロゲン・プロゲスチン配合薬、トラネキサム酸などを用いる。 5.閉経直前の年代ではGnRHアゴニスト療法を行う。 このように示してあります。つまり、UAEは産婦人科ガイドラインの3番目に明記してあるのです。
まずは産婦人科学会会員のアンケート結果をご紹介します。
産婦人科ガイドラインにUAEが記載されていることを知っている産婦人科学会員は75%にのぼりました。
では、診療の場面で患者さんに子宮筋腫の治療選択肢にUAEがあることを説明する割合はどうかというと、1.必ずする(8%) 2.ほぼする(15%) 3.する場合としない場合半々程度(21%) 4.ほとんどしない(53%) 5.絶対にしない(3%)という結果でした。UAEのことをほとんど説明しない婦人科医が半数以上という結果でした。
なぜUAEを選択肢として説明しないかの質問に対する回答では、「経験がなくよくわからないから」が1位、「子宮筋腫の治療は既存の治療で十分である」が2位でした。
外科的手術(子宮全摘術、核出術)とUAEの両方に適応がある場合、どちらを優先した説明を行いますか。という質問には75%の婦人科医が外科的治療と回答しました。
これではUAEという選択肢もあることを患者さんは知らされないで婦人科医の提示する外科的治療を選択する場合が大多数となります。しかしUAEを実施するのは放射線科医であるから、UAEについて婦人科医がよくご存じないのも無理もありません。
外科的治療を希望しない患者にどのような治療を勧めますかという質問には薬物療法が圧倒的で、UAEを勧める医師は20数%にとどまりました。
患者からUAEを希望されたことがありますか。との質問では はい46%、いいえ54%でした。半数近くの患者さんがUAEについて質問していると言えます。ここでUAEについて説明するのは患者さんを目の前にした婦人科医ですが、婦人科医はUAEについてよく知らないのですから、説明は十分にできません。
EUや米国ではそれぞれ年間約2万人がUAE治療を受けていると推定されますが、日本では年間数百人にとどまっている理由を尋ねると、「産婦人科医師が手術を推奨する」「UAEが日常診療といえるレベルまで普及していない」がどちらも50%を越えました。
それでは放射線科医側であるIVR学会会員のアンケート結果はどうでしょうか。
UAEを最近1年間で何件行ってますか。回答は0件が圧倒的多数でした。UAEを行うために所属する放射線科やあなたご自身が行ったことのある活動はありますか。に対する回答は、「依頼があったらやる」と「特別な活動はしていない」が圧倒的多数でした。
UAEを行っていない理由については、「紹介がないから」が8割を越えました。UAEが今後日本で増えていくべきだと思いますか。に対しては78%のIVR医が増えていくべきだと思っています。
この結果から、放射線科医側は受け身であり、婦人科医側はUAEを選択肢に提示しないケースが多いことがわかります。私もそのように感じていましたが、アンケート調査で数字に表れることでやはりそうなのだと確信しました。
実際に当院に来院される患者さんのほとんどは婦人科からの紹介ではなく、ご自身でUAEの事を調べて来られています。このコラムを目にされている方の多くが、婦人科ではUAEなど知らせてくれなかったが、本当に切るしかないんだろうか、と疑問を感じて熱心に調べられた方ではないでしょうか。
UAEってどうなんだろう。という不安や疑問があっても相談できる医師が少ない。でもUAEが気になる。 そういう方のために私は無料メール相談で来院前に質問にお答えしていますし、来院されたら十分に長い時間をとって、画像を元にUAEのメリットとデメリットについて詳しくお話しています。 UAEを施行した術後の患者さんの疑問や悩みもメール相談にお答えしています。術後にとても生理が楽になったという嬉しい知らせも多く受けています。 病院勤務の放射線科医はさまざまな日常診療に対応する必要があり、UAEに十分な時間が取れないという現実があります。当院ではUAEに特化した診療をしていますので、放射線科医の私が直接患者さんに説明し、実際に施術し、術後のフォローも放射線科医の私がします。婦人科的処置や意見が聞きたい時には当院に婦人科医も居ます。
UAEの窓口が少ない現状ではありますが、少しずつでもUAEが一般的に認知されるようになることを願いながら、ささやかな努力ではありますが、日常診療をしています。